Guest Profile
井上 勉(いのうえ・つとむ)
1977年兵庫県神戸市生まれ。大阪商業大学卒。株式会社光通信にてOA機器販売事業、ウェブ事業、モバイル事業など、多くの事業責任者を歴任。09年、アリババマーケティング株式会社 常務執行役員として海外EC支援事業を立ち上げ。10年、FindJapan株式会社を設立し、新浪微博との独占契約を締結。12年、セールスサポートを担当するFJSolutions株式会社を設立し、現在に至る。
特集中国最大SNSウェイボーを軸に対中ビジネスのソリューションを提供
1.日本企業にとって中国に勝る市場は存在しない
この数年、中国進出プロモーションを手がけていた多くの同業者が、中国から手を引いてASEANに軸足を移した。このチャイナ・プラスワンの流れは、エフジェイソリューションズにとって絶好の好機だったという。いわば宝の山を前にして、同業者が次々と去っていったような状況だったのだ。
同社は「中国版ツイッター」と呼ばれる「新浪微博(シナ・ウェイボー)」への登録と公式アカウント取得を受託している。ウェイボーは2009年8月にサービスを開始。既に会員数は5億人を超え、中国最大規模のSNSに成長した。
社長の井上勉は設立当初から対中国ビジネスに照準を当て、今後も変えるつもりはないと明言する。
「日本企業にとって中国に勝る市場は存在しない。インドもポテンシャルはあるが、日本からは地理的に遠いし、言語も複雑なので中国に比べれば市場としての魅力は落ちる。例えば日本のアパレル商品は中国人ならそのまま着られるが、外形の異なるインド人にはマッチしない」
井上は世界最大の企業間取引サイト「アリババ」が日本に進出して、日本市場を席巻する橋頭堡を築いた実績の持ち主だ。それだけに中国市場の実像にも精通し、反日ムードが報道される渦中にあっても、日本製品の購買が衰えなかった現実を把握している。
1977年生まれの井上は、大阪商業大学を卒業して光通信に入社した。対中国ビジネスとの接点を持ったのは09年。光通信が設立したアリババマーケティングの常務執行役員に就任し、国内ユーザー開拓を統括したことだった。
アリババマーケティングは本体のアリババ・ドットコムの日本代理店アリババジャパンと独占契約を結び、井上は50人の営業組織を率いて、2年間に約400社を開拓した。この時期にECサイト経由で売れる日本製品の特性をつかんだのだ。
海外からオファーが多かったのは日本製の中古車だった。日本人ほど新車を頻繁に買い換える国民は世界になく、中古車といえども性能が劣化していない。しかもメーカーはトヨタ、日産、ホンダなど世界のトップブランドなので、海外の消費者にとってわかりやすい商材なのである。
2.ECサイトではブランド力が成否を決する
一方で中古車以外の商材は売れ行きが芳しくなかった。一般消費材も産業資材もメイド・イン・ジャパンは、品質への評価からオファーが相次ぐと想定していたのだが、そうではなかったのだ。井上が学んだのは、ECサイトではブランド力が成否を決するという原則だった。
「日本製のネジや機械などは品質が良くても、メーカーが中小企業なのでブランディングされていなかった。そのうえ、他国の製品と比べて日本製は価格が高いので、海外のユーザーにとって魅力がなかった。海外に商材を売るには現地のマーケットに合うブランド、価格、デザインでなければ難しい」
その後、10年に社内独立制度を活用してファインドジャパンを設立した井上は、11年、ウェイボーと国内独占代理店契約を結んだ。さらにSBIグループのシェアリーチャイナと提携し、訪日中国人旅行客向けサイト「JJ―Street」の広告掲載の独占販売をスタートさせる。
翌12年、ウェイボー事業を推進するためにセールス部門とサポート部門を分離し、新会社としてエフジェイソリューションズを設立した。ウェィボーの公式アカウント取得企業として開拓したのは約450社。大手から零細規模まで多様な企業が並び、業種ではアパレルが多く、次いで化粧品と健康食品などが多い。
この450社の開拓に際して、同社は中国本土からのニーズを確認し、ウェイボーユーザーが必要とする情報を意識しながら日本企業を開拓してきた。
前述の450社に加えて、最近では外食産業の情報が求められており、「飲食店は企業規模の大小に関係なく抑えていく」(井上)という。
サービス内容は、社名に「ソリューションズ」と付けられたように、対中国ビジネスのソリューションの提供である。ウェイボーに対するアカウント作成、認証マーク申請などを代行し、サポートコールセンター運用や成功事例セミナー、無料翻訳サービスなどを提供している。
3.ウェイボーでブランディングすることに価値が生まれ、購買につながる
中小・ベンチャー企業にとって中国進出リスクを軽減するには、まずは国内にいながら中国市場を開拓するのが現実的で、その有力なツールとしてウェイボーを普及させているのだ。井上は「いきなり中国に事業所を開設するのではなく、ウェイボーを通じてブランディングを図りながら対中国ビジネスに慣れて、その後に直接の進出を検討したほうがよい」と指摘する。
実際、ウェイボーでPRして認知度を高めることで代理購入につながることがわかっている。海外にいる中国人の友人に代理で購入してもらうといった市場は2兆円とも言われている。
ウェイボーの公式アカウントは5億を超える登録アカウントのなかでも希少なので、ファンを増やし、ブランド力を向上させやすい。しかも公式アカウントのVマークは、模倣品の多い中国では商標と同等以上の価値を持つという。露出機会の増加に向けて中国有名ブロガーが、登録企業の投稿を拡散するプロモーションやウェイボー公式広告サービスの取り扱いも行なっている。
目下、井上が確実に需要を見込んでいるのが、訪日外国人向けのビジネスだ。観光立国を志向する政府は、2020年に訪日外国人数を2000万人に到達させる青写真を描いている。この機運にあって、ウェイボーに登録してブランディングに着手しておけば、訪日外国人によるインバウンド需要を吸収できる。
これだけ大きく変貌する消費環境に対して、同社は「まだ売上げや利益を開示できるレベルではない」(井上)と謙遜しながらも、中国向けプロモーションで地歩を築いてきているのである。